昨年から続くコロナ禍の影響もあり、遠隔で接客を行う “オンライン接客” を取り入れる動きが、ECや小売業界を中心に急速に広がっています。
また、この一年で “オンライン接客” という言葉自体の定義も広がっており、チャット接客、SNSを用いたライブ配信、ビデオ接客など、様々な手法で使われるケースが増えてきています。しかし、実際にこれらの言葉が明確に区別されているわけではありません。
本記事では、COMMUNICATION ACADEMY「TSUNAGU – hub」において実施された『プラットフォーマーが考えるECのオンライン接客について』というセッションについてレポートしています。株式会社これからの川村 拓也氏、株式会社バニッシュ・スタンダードの薄井 崇史氏、株式会社フューチャーショップの安原 貴之氏、株式会社ギブリーの奥田 栄司、クボテックの久保田 夏彦氏が、各社の考える“オンライン接客” の役割、そしてこれからのECに必要な“オンライン接客”についてお話しいただきます。
目次
登壇者情報
ベンダー視点からみる コロナ禍での市場変化
EC強化が不可欠な中で抱えるサイト課題
各社が考える “オンライン接客” の重要性
デジタル上でもユーザーの心を動かすには?
これからのECに必要な接客
“登壇者情報”
【スピーカー】
株式会社これから 取締役
川村 拓也 氏
2004年、IT系上場企業に新卒として入社。 ECサイトのコンサルティング営業を行う部署に所属し、同期85名の中で最短にて管理職昇格。その後全国拠点の拠点長を歴任し、2012年1月株式会社これからに創業メンバーとして参画、取締役就任。小規模ショップから東証1部上場企業まで、500社以上のECサイト戦略について支援。 年間50回以上のセミナー登壇やイベント講演、書籍「図解即戦力 EC担当者の実務と知識がこれ1冊でしっかりわかる教科書」(技術評論社)の執筆を行い、日本全国のECサイト売上向上を目指す。
株式会社バニッシュ・スタンダード VP of Sales
薄井 崇史 氏
Webマーケティングツールを提供するシルバーエッグ・テクノロジー株式会社で、クライアントへの導入提案から、パートナー企業とのアライアンスの構築等を経験。その後、ランサーズ株式会社を経て、2020年11月に株式会社バニッシュ・スタンダードに入社。営業責任者として、ファッション業界を始め、化粧品・家具・家電・食品・小売等、様々な業種の「スタッフのDX化」をSTAFF STARTの提供を通じて支援しています。
株式会社フューチャーショップ 執行役員 セールス・マーケティング部 統括マネージャー
安原 貴之 氏
受託開発を行う企業に新卒で入社し、エンジニアとして大手通信会社や自動車会社のシステム開発に従事。2004年にオフショア開発拠点開設のため上海に駐在し、6年間現地法人の責任者として約50名の中国人エンジニアを採用し、日本からの開発業務を受託する。2010年に帰国後、2011年にフューチャーショップへジョインし、プロダクト企画・アライアンスを担当。現在はfutureshopのマーケティングとセールスを担当する部署の責任者として、各種イベントやセミナーにも登壇し、EC事業者の皆さまにfutureshopの魅力をお伝えしている。
株式会社ギブリー 取締役 Conversation Tech部門長
奥田 栄司 氏
大手シンクタンクで大手企業のシステム企画、開発、運用を10年ほど経験。その後渡米し、日系企業向けITコンサルタントとして従事すると、帰国後は株式会社gloopsの海外事業責任者として活躍。ベトナム子会社の立上げや、韓国事業の推進を担当。国で注目を集めるMARTECH(Marketing×Technology)分野の第一人者として、IT勉強会などで登壇する機会も多く、現在は、株式会社Resola 代表取締役社長に就任。SYNALIO / LIBERO / Virtual Store 3プロダクトの責任者を務める。
【モデレーター】
クボテック
久保田 夏彦 氏
1993年オージス総研に入社。1996年より20年間、ナイキジャパンにて、Nike.jp, NIKEiD, インフルエンサーマーケティング、MIYASHITA PARK の立上げなどを歴任。2016年に株式会社アダストリアに移籍。執行役員・マーケティング本部長として25ブランドのマーケティングとDX、コーポレートブランディングを統括した。2019年10月に独立。渋谷未来デザインやWEEKENDを中心に、代理店でもコンサルティングでもないプロジェクトデザイナーとして、多くのブランドのマーケティング及びDXをデザインしている。
“ベンダー視点からみる コロナ禍での市場変化”
モデレーターを務めるクボテックの久保田氏が最初に取り上げたテーマは、「コロナの影響で市場はどう変わったか?」です。特に過大な影響を受けている店舗ビジネス・EC市場ではどのような変化が訪れたのでしょうか。
SaaS型ECサイト構築プラットフォームを提供している株式会社フューチャーショップの安原氏は「緊急事態宣言が発令された2020年4月〜5月にEC利用が大幅に増加した」と話し、当社クライアントのEC経由からの注文件数が前年比で200%を上回る調査結果を紹介。「月別のEC利用状況もこれまでの傾向を無視した伸び率で、緊急事態宣言解除後も毎月昨年を上回るペースで増加している。さらに、新規でEC利用を開始した会員数も昨年比で1.7倍増加した」と急激な変化を報告しました。
実店舗で購入していたユーザーが、ECサイトで購入するようになったのではないかと分析するのは、株式会社ギブリーの奥田。「私たちの顧客でも、店舗の売上が昨対比で約20〜30%下がる一方で、ECサイトの売上は110〜120%向上した結果が出ている」と語ります。
株式会社これからの川村氏、株式会社バニッシュ・スタンダードの薄井氏も同意して、コロナ禍の影響によるオンライン施策のニーズの高まりや消費者行動がデジタルシフトしたことによるECの重要性を言及した。
“EC強化が不可欠な中で抱えるサイト課題”
ほとんどの事業者がECサイトの強化を強いられる中で、生じる課題は何か?久保田氏はこの点に話を進めます。
「実店舗で行っていた“共感を生む接客”をオンラインでも再現していかなきゃいけない」と見解を示すのは、薄井氏。「ECサイトは、商品紹介ページをかっこよくしすぎている問題がある。どのブランドもスタイルのいいモデルを起用しているケースが多いため、ECサイトの写真だけでは、利用イメージが湧かず購入に繋がりづらい」と語ります。
確かに、店舗での購入だと試着ができるので、自分にフィットしているかどうかを確認して購入することができます。しかしECサイトでは、フィッティングが難しいため、オンラインで商品を購入することにネックを感じてる消費者も多いはずです。
川村氏も、「以前まではO2Oという言葉の通り、ECサイトから実店舗への行動喚起ができていたが、今後はデジタル完結していかなきゃいけなくなる」と推測。
「あくまでも分離している世界観だった店舗とECサイトが融合し、デジタルで完結するための施策を打ち出していかなきゃいけない」と述べた一方で、OMOの実現には一定の課題も。消費者行動のデジタルシフトが進んでいるが、企業側にOMOを設計できる人材が少ないため、ECサイトで完結しなくなったカスタマージャーニーの設計に悩まれる企業も増えています。
“各社が考える “オンライン接客” の重要性”
企業はこのような課題を解決するために、どのような対策をとっていけば良いのでしょうか。その一つの答えが、今回のテーマである “オンライン接客” です。
オンライン接客とは、インターネットをはじめ、テクノロジーを駆使して顧客やユーザーに接客することを広く指しますが、考え方や手法は様々です。
オンライン上で顔を合わせた接客を可能にする仕組みもあれば、人を介さずに双方向のコミュニケーションを取ることができるボット機能など、“実店舗に近い顧客体験を提供できる”ことがオンライン接客の特徴です。
川村氏がオンライン接客をおこなう上で重要なポイントとして挙げたのは、
・自社のカスタマージャーニーマップを把握すること
・顧客接点に合わせて、ツールを選定し使い分けること
の2点でした。
「各社によって顧客との接点は異なる。たとえひとつのバナーであっても、“接客”として捉えることが大事」という意見を提示。
安原氏も、「必ずしもすべてにおいて接客をする必要はないが、自分たちはどの顧客接点で接客を行うかを考えることが重要」と接客の重要性において賛同しています。
オンライン接客のプラットフォームとして複数のプロダクトを提供するギブリーの奥田は、「チャットボットやポップアップなどの手軽な接客から、人を介する有人チャット、さらに上質な接客を行うことができるビデオ接客など、手法は複数あるので、自社の課題に沿って利用してほしい」とまとめています。
一方、薄井氏からはアパレルのECサイトを例に、下記のような意見も。「人を介して “応用情報” を提供できるかどうかが重要。例えば、服の着丈などの情報はECサイトで確認をすることができるようになってきている。だからこそオンライン接客では、『この服は何度洗っても縮まない良質な素材』『裏表で着られるデザイン』など、見た目では伝えることが難しいことを伝えていく付加価値を出すことが重要」としています。
“デジタル上でもユーザーの心を動かすには?”
オンライン接客を行うことが重要ということを踏まえた上で、企業はまずどこから着手するべきなのか。また、どうしたら顧客体験を向上できるのか。カギとなるのは、実店舗とECサイトの顧客データを統合することだと安原氏はいいます。
実店舗にしか足を運ばない消費者に対して、ECサイトでポイントが使えることを伝えるだけでも、お客様の行動喚起を促すことができる。オンライン接客の話になると、“何をするか”で考えられがちですが、“誰にするか”を考えることで体験価値もあがるのではないかと説明しています。
さらに顧客の心情変化に合わせて、最適なツールを用意することが重要と述べるのは、川村氏。「人によっては、寝る前の時間帯に情報をみたかったり、昼間にしっかり説明を聞きたいなど、様々なのでお客様が詳しく聞きたいと思った時に適切な情報を提供できる体制をつくることが満足度にも繋がる」として話しています。
また、店舗スタッフのDXアプリケーションサービス「STAFF START」を提供している薄井氏は、“販売員への共感ポイントを創ること”について言及しました。
STAFF STARTで売上の成績がよい販売員は、地方店舗で少しふくよかな50代女性スタッフや、60代で販売員歴40年の男性スタッフなどが多いといいます。このような販売員はお客様と等身大で接客を行うことができるため、お客様にとっては共感がしやすく、ユーザーの心を動かすことができるのではないかと語りました。
“これからのECに必要な接客”
セッションの締めくくりでは、「今後のEC業界に必要な接客とはなにか」と、事業者が行うべきことについて話を展開させた久保田氏。
安原氏は、「接客で最も大事なことは“顧客の課題解決”のため、どんな課題があるのか、それに対してどう解決していくべきなのかをはっきりさせることが大事」とコメント。ツールを導入して解決できる課題はトライしていく。トライするのはハードルが高いと考える企業も多いかと思いますが、最近では、安価に始めることができるツールが増えているので、まずは課題把握をしてやってみることが重要といいます。
川村氏も「すべて自社で行うことは難しいので、提供している企業に協力してもらいながら行っていくことが大事なのでは」と同調します。
さらに、オンライン接客を現場で行うスタッフの評価についても話は及び、「店舗での売上は評価されるのに、デジタル施策は評価されないとなると、EX(Employee Experience)も高められない。きちんと教育・評価し従業員満足度をあげることで、売上にも繋がりスタッフもポジティブに取り組んでもらえる」と薄井氏。
奥田は、「オンラインでも顧客一人ひとりに合わせた提案を最適なタイミングでおこなうことが大切」と語っています。
今後はオンラインでもお客様のニーズに合わせて、接客を行うことが益々求められるようになります。それに合わせて、チャットボットのように簡単にオンラインで接客を提供できるサービスが増えていくと想定されます。
その一方で、個別にお客様の対応をすることができる『人』による接客の価値も高まっていくでしょう。接客としての本質である顧客理解をきちんと行い、自社にあったツールを選定し、人による接客の力を最大化できるようにすることが重要です。